小さい箱。
『君の声を聞けるだけで、その日は1日幸せだった。
君に好きって言われた時は、あぁもう世界が本当にバラ色だった。
君に触れられるだけでもうそれで十分だったんだ。
これっきりで君の声や姿が見えないのが残念だよ。
ねぇ、好きよ。これから先も。』
「俺も。」
もう届かなかった。
だって、もうお前は目を開けてはくれやしないし、可愛い声も聞かせてくれないし、もう俺に好きなんて言ってやくれない。
俺の可愛い恋人は、小さい箱に入ってもう動きやしない。
汚い君
「月が綺麗ですね。」
君は、あーみたいな顔をして誤魔化す。
そんな汚い君も好きだよ。
姉妹。
私の姉は傑作だった。姉としても、人間としても。彼氏がいて、仕事でも大きなプロジェクトを任せられて、両親にも可愛がられて。
でも、姉は遠距離恋愛中の彼に隠れて、男に抱かれていた。それを隠しもせず私に言うのだ。
欠陥品の私は姉を責める気にもなれず、姉に平然と笑顔を向けて、ただただ虚しくなった。
田舎から都会に住んでいる姉のところへ遊びに行った時、姉が居酒屋に行こうと言い始めた。
最初は嫌がったが、押しに負けて行くことになった。
そこの居酒屋は本当におしゃれで、都会の男とかいうのが沢山いた。
「妹ちゃん、彼氏いないの?」
「だーめ。妹に手出さないでね。」
「大丈夫だよ、居ないですよ。」
居心地が悪かった。姉が女であったからだ。
「あ、ちょっとあたし、トイレ行ってくる。」
「あ、うん。いってらっしゃい。」
無言でお酒を飲んだ。するとカウンターに立っている男の人が話しかけてきた。
「ねぇ。」
「…はい。」
「実際のところどうなの?」
「え?」
「彼氏。」
あー、そういうことか。この人たちは姉の"男"だ。私も抱けるのか品定めしてたのか。
「本当に居ませんよ。」
「へー。可愛いのに。妹ちゃんの方が居そうなのにね。清楚で、気品があるし。」
なんだかいらいらした。
「姉は、傑作です。姉としても、人間としても、女としても。」
「じゃあ、妹ちゃんは?」
「私は……欠陥品です。妹としても、人間としても、女としても。」
あぁ、そうか。
この虚しさは、何をしても勝てない自分自身にだ。このいらいらは、私の頑張りを馬鹿にされた感じがしたからだ。
なんだ。簡単じゃないか。
ただ単に姉に嫉妬していたんだ。
「ただいまー。」
「おかえり。」
私は汚い女だな。
「何話してたの?」
「彼氏居るかって聞かれたから居ないって答えただけだよ。」
汚い私はやっぱり平然と笑ってた。
裏側の気持ち
誰でもよかった。
必要とされたかった。
それが例え都合のいい相手だったとしても。
私を私として認識してくれる人であれば誰でもいいの。
そうすれば一瞬だって心は休められるし、生きる糧にもなった。
何も考えなくてよかった。
でも、そうしていたら本当に必要にされたかった人たちには必要とされなくなるのね。
S O S
いつも太陽みたいに笑ってた彼女が暗い顔をしていた
「なんかあった?」
「大丈夫」
彼女はその言葉の一点張りだった。
その3日後、彼女は死んだ。
「大丈夫っていったじゃんか。」
白い箱に入った彼女の前で泣き崩れた俺に彼女はただただ微笑んでるだけだった。
無かったことにしてあげる
私は常に死にたいと思って生きていた。
生きていたいだなんて思ったことは無いし、この先の未来を考えたことすらない。
丁度、飛び降り自殺をしようとしていたとき、仲のいい彼女がそこを通りかかった。
「私、死にたいの。」
「そっか。」
あまりにあっさり言うものだから、
「止めないの?」
と聞き返した。
「……止めないね。死にたいと望んでる人にやめてと言ってもそれから先、生きられる見込みなんてないし、生きたいと思わせてあげることも私にはきっと無理だ。だから、私は私のために君を止めないよ。飛びたいなら飛べばいいよ。」
その言葉を聞いて私は心置き無く飛んだ。
「あーあ、飛んじゃった。」
そう彼女が呟いたのは聞かなかったことにする。